アベノ中国語道場

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【知識篇】 古代漢語

古代漢語とは何ぞや?

 

古代漢語は、近代以前の古い時代に使われていた中国語を指し、現在使われている現代漢語とは異なるものです。「古代漢語」と「現代漢語」の大きな違いは、現代漢語が口語をベースにつくられているのに対し、古代漢語は完全な文語文(書きことば)である点です。

歴史的に見ると、古代漢語から現代漢語へ変わる転換点となったのは、1910~1920年代にかけて行われた文学革命白話運動)です。当時、胡適を中心とする知識人たちは、中国語の書きことばを、従来の文語文から口語文へと変えようとする運動をすすめていました。この文学革命を境として、誰にでも分かる口語文が書きことばとして普及していきました。

新中国建国後には、首都である北京の方言(北京語)をベースとして、標準語が制定されました。当然、書きことばも標準語の口語を使って書き表す習慣が定着しました。

このように、古代漢語は古い時代の知識人の共通語(書きことば)として、数千年間使われてきました。ヨーロッパで、同じように国を超えて知識階級の間で使われた、書きことばとしてのラテン語に通じるところがあるのではないかと思います。

 

古代漢語と現代漢語の違い

 

では、古代漢語と現代漢語はどのような違いがあるのでしょうか?

具体的には、用語、音韻、文法などに違いが有りますが、大まかに言えば、

 

①文語体(古代漢語)と口語体(現代漢語)の違い

②時代的な違い

 

と言えるのではないかと思います。

 

①の文語体と口語体は、言語としての基本的な性質が異なるので、大きな違いとして現れると思います。

②は、歴史的な意味で言えば、古代漢語は現代漢語の前身であり、また現代漢語は古代漢語の発展したもの、と言うこともできるでしょう。

具体論で言えば、用語法に大きな差が見られます。例えば、動詞では下記のような違いがあります。

 

「歩く」 → 古代漢語:“行”/ “步”  現代漢語:“走”

「走る」 → 古代漢語:“走”  現代漢語:“跑”

「食べる」 → 古代漢語:“食”  現代漢語:“吃”

「言う」 → 古代漢語:“曰”/“言”   現代漢語:“说”/“讲”

「書く」 → 古代漢語:“书”  現代漢語:“写”

 

これを見ると、古代漢語の用語法は、現代漢語よりも日本語に近いことが分かります。

それぞれの動詞(漢字)は元々同じ意味を持っていますが、使い方が違います。

これはほんの一例ですが、他にも、介詞(助詞)や接続詞などにも違いが見られます。

また、表現上では、現代漢語の書面語(書きことば)は古代漢語に近い表現も多々見られます。こうした書面語は、口語(話しことば)ではほとんど使われません。

 

日本人と古代漢語

 

古代漢語は、日本的に言うと「漢文」です。漢文は、高校の国語の時間にほとんどの人が習った経験があるでしょう。じつは、この「漢文」は中国語なのです。より正確にいうと「古代漢語」という古い中国語です。国語の時間に漢文を習った人で、それが中国語という「外国語」だと実感した人はほとんどいないのではないでしょうか?これは実に不思議な現象だと言えます。

そういう私も、中国語の勉強を始める以前、高校の国語の授業で、司馬遷の「史記」や「唐詩」といった漢文を習いました。その時には、漢文が(古い)中国語だとは考えもしませんでした。そのことに気づいたのは、中国語(現代漢語)を習い始めた後だったのです。

今でも、日本の高校教育では、「漢文」と言うれっきとした外国語を、母語(国語)の一環として教えています。その秘密は、漢文(古代漢語)と日本人との深い関わりの歴史にありそうです。

ご存知のように、日本人は、中国語である漢文を読む場合に、「返り点(レ点)」を打っています。なぜこの返り点が必要なのでしょうか?それは、中国語と日本語の基本構文が異なるからです。もともと、中国語は「シナチベット語族」、日本語は「ウラル・アルタイ語族」に属し、語系が異なる言語です。いちばん大きな違いは動詞を置く位置で、中国語は目的語の前、日本語は目的語の後になります。したがって、漢文に返り点を打つことで、日本語の語順に置き変えて、そのままでも読みやすいようにしているのです。返り点を打った日本語読みの文を「書き下し文」と呼びます。

日本は、古代に文明が開けてからずっと中国文化の影響下に有りました。古代に中国から漢字が伝来し、そのころは、日本語を書き表す文も漢字だけを使った漢文でした(例えば「古事記」など)。

その後、平安時代になると漢字から「仮名」がつくられましたが、仮名はあくまで「本字」である漢字の付属物で、日本語の文字はあくまで漢字が中心でした。

そして、日本の知識階級にとっても、中国の古典を学ぶことが必須の教養だったので、中国から輸入したたくさんの書物を学んでいたのです。その中でも重要なものは、四書五経をはじめとする儒教の古典です。それは、貴族の時代から武士の世になっても変わりませんでした。特に、江戸時代には儒教の一派である「朱子学」が「漢学」と呼ばれ、幕府の奨励する学問だったので、武士階級はみな儒教の古典を学びました。当時、多くの寺子屋では、「論語」の素読が行われていたそうです。

このように、長い歴史の中で漢文(古代漢語)に慣れ親しんできた日本人ですが、その目的は、決して実用的な語学の習得ではありませんでした。漢文を学ぶ目的は、何よりも中国の古典(儒教)という教養を身につけるためでした。つまり、中国の知識階級(読書人)と同じ事をしていたのです。

時代が下り、明治維新以後に西洋文明が怒涛のごとく押し寄せてからは、この中国の古典を学ぶ伝統は廃れたように見えました。しかし、それは全く消滅したわけではなく、国語の中の「漢文」として残されているのです。

 

古代漢語と現代漢語

 

上記のように、日本人は古代漢語(漢文)を独自の方法で学んで来ました。しかし、本来古代漢語も現代漢語も、同じ中国語の枠組みに入ります。したがって、現代漢語を学んだ日本人が、その知識をベースとして古代漢語を学べば、これまでとはまったく異なる世界が見えてきます。

まず、古代漢語の文章を、あくまで中国語として、現代漢語の発音で読んでみます。これは、日本人が「書き下し文」という独自のメソッドで読んできた方法とはまったく異なるアプローチです。すなわち、「中国語として古代漢語を学ぶ」ということです。こうすることで、これまで接してきた「漢文」に、新たな視点を加えることが出来ると思います。

 

※なお、中国では、古代漢語に関するテキストと辞書として、下記のものが出ています。

 

《古代汉语》  王力著  中华书局

《古代汉语词典》 陈复华主编  商务印书馆

 

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王力著《古代汉语》